英語学習の大きな壁の一つに、「単語が覚えられない」というものがあります。

私が勉強している時代にもいくつもの壁にぶち当たりました。

英語の本を読んでみようと思っても、知らない単語ばかりで全く楽しく読めない。
気を取り直して勉強のためにと割り切って、単語帳を作り、紙の辞書で知らない単語を調べては蛍光ペンで線を引きながら読み進めていくと、すでにマーカーが引いてある単語を何度も調べて、げんなりする。

リーディングだけでなくて、リスニングでも、この単語何だろう?と思って調べたら実は習ったばかりのものだった。

書く、話すに至っては、「これ英語でなんていうんだっけ・・・」ばかり。

「1日5単語、3か月で無理なく450単語!」なんて勉強法もうまくいかない・・・。

今考えれば、うまくいかないのは当たり前でした。
何故なら、人間の基本的本質を無視した机上の空論だからです。

本質、それは、「人は忘れる生き物である」ということ。

確かに毎日5単語ずつ1年続けたら1825語。では、そのうちいくつ定着しているでしょうか?1年前に学習した単語を1年経った後も覚えていられるものでしょうか。

記憶の種類

記憶には大きくわけて2つあります。保持期間が数十秒程度の短期記憶と、記憶が固定化された長期記憶です。

短期記憶とは、例えば電話番号を聞いて書き留めるような場合。書き留めるまでの数秒だけ記憶に留めておきます。

この短期記憶には一度に保持される情報量に限界があることが知られています。
この限界値は「マジカルナンバー」と言われています。

長らく、1956年アメリカの心理学者ジョージ・ミラー教授が発表した「マジカルナンバー7」という説が有力でした。7±2(5~9)の情報のかたまりが一時的に記憶できる容量の限界だという説です。
しかしその後も研究が進み、現在では2001年のミズーリ大学のネルソン・コーワン教授による「マジカルナンバー4」という説が有力となっています。情報のかたまり、4±1(3~5)が短期記憶の容量限界であるという説です。

一方で、長期記憶には、言葉で表せる「宣言的記憶」と、言葉で表せない「非宣言的記憶」の2種類があります。
宣言的記憶は「3年前の夏、友達と沖縄へ行ってダイビングをした。」というようなエピソード記憶と、言葉の意味や知識といった意味記憶に分かれます。非宣言的記憶は、自転車の乗り方などの手続き記憶と、無意識の記憶であるプライミング記憶とがあります。
プライミング記憶には馴染みがないかもしれませんが、例えば連想ゲームが始まる直前にバナナを食べていたとしたら、黄色を見た瞬間にバナナを思い出す、といったように、事前に見聞きした情報がその後の情報に影響を与えるような記憶です。

記憶とは、「情報を受け取り(記銘)、ストックして(保持)、必要な時に取り出す(想起)」というステップから成り立ちます。

英語学習の目的は、情報を長期記憶にストックすることです。そして、学習した情報を必要な時に長期記憶から情報を取り出して使うことで、英語を使える状態になるのです。

数十秒で忘れてしまう短期記憶ではなく、長期記憶としてストックするために必要なのは反復すること。

入ってきた情報はいったん海馬という場所で、これから使う予定がない情報なのか(短期記憶)、頻繁に使う情報なのか(長期記憶)を判断し、よく使うものは取り出しやすいように整理していきます。
反復によって、仕分けの際に、「よく使うもの」として長期記憶へ情報をストックしていくのです。

そして情報の取り出しやすさの面では、実は「意味記憶」よりも「エピソード記憶」の方が優れていると言われています。

例えば、「carry=運ぶ」と覚えるよりも、「大きなスーツケース抱えて階段の下にいた時に、通りがかりの男性に”Let me carry that for you.”って言われた」というようなエピソードが絡んだ方が、すぐ出せるところにストックされやすい、ということです。

それでは、反復について、そして、エピソード記憶として覚える方法について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

エビングハウス忘却曲線の正しい捉え方

ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghau)が行った長期記憶に関する実験をもとにした「エビングハウスの忘却曲線」。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

何時間後、何日後にはどのくらい忘れてしまうから、そのタイミングで復習することが効果的!という解釈が広く出回っていますが、実はこれ、実験結果を正しく反映したものではないというのはご存知でしたか?

忘却曲線と言われるカーブは、正しくは、忘却率ではなく「節約率」を表しています。節約率とは、「同じことを覚え直すときにどのくらいの時間や回数を節約できたか」ということです。

つまり、1回目に単語1ページを覚えるのに15分かかったとしたら、節約率44%の1時間後には、最初の56%である約8分半(504秒)で覚えられ、1ヶ後には約12分(711秒)かかるということです。
ただしこの実験は、「子音+母音+子音」という意味をもたないアルファベット3文字を暗唱するのに必要とした反復回数を記録したものなので、英語を覚えるとなると厳密には違いが出てくるはずです。

それでも、「1回目より2回目の方が覚えやすい」ということと、「復習の時間を空けるほど覚え直すのに時間がかかる」ということは言えるのではないかと思います。

何回やれば覚えられるかについては諸説ありますし、もちろん個人差もありますが、最低4~5回というのが現実的なところでしょう。

試験対策に!大量インプットのすすめ

何度も繰り返し覚えるために、10の単語を1ヶ月かけて繰り返し覚えていても、1年で120単語しか覚えられません。

テスト対策に一気に語彙を増やしたい方、または初心者で現在の語彙が少なく一気に底上げしたい方には、単語の大量インプットをおすすめします。

大量インプットの際にも「反復」を意識して行います。

私がおすすめするのは、「英単語+例文+音声」の3点セットがついた単語帳などで、1ヶ月で数10~数100の単語を一気に覚える方法です。

単語帳を使ったインプット手順

1周目は少し時間をかけて単語と知り合いましょう。時間をかけてと言っても、よほど長い例文でなければ1つの単語にかける時間はせいぜい30秒程度です。
まず意味と発音を確認して、例文を声に出して読みます。その時、ただ呪文のように丸暗記しようとすると難しいので、できるだけイメージとしてとらえるようにします。
例えば、My phone is missing. という文では「missing」=「みつからない」という意味ですが、単に日本語訳を覚えるのではなく、「その場になくて見つけることができない」というイメージを持つようにします。
そうすることで、”I miss you.” に出会った時、「その場にいない人のことを思って寂しいと思っている」というイメージが、missingとリンクして、より理解が深まるのです。

また、何か少しでも気づきを得るよう、意識して確認するのがおすすめです。この単語はこの前置詞と組み合わせて使うのか、とか、これは昨日みた単語に似てるな、とか、これがこんな発音になるのか、とか、何でも良いので、小さな「ふむふむ(驚きや感動)の発見」や「感情・経験との結び付け」を行うことで、記憶に残りやすくなります。

そして2周目、3周目と何度も同じ単語を繰り返して目にし、声に出し、としていくうちに、見た瞬間にわかる単顔が増えてきます。

自分は何派?3つのタイプから有効な学習法を!

人によって覚えるパターンが違います。視覚派聴覚派身体感覚派、3パターンあり、それぞれ得意分野があるのです。

例えば昨日の食事の場面を思い出す時、料理の映像が浮かぶのか(視覚派)、その場の音楽や人が言った言葉を思い出すのか(聴覚派)、それとも匂いや味などを思い出すのか(身体感覚派)。どの要素も均等に持ち合わせているという方もいますし、2つある要素のうちどちらか優位なものがある方もいます。

見て覚えるのか、聞いて覚えるのか、書いたり動いたりしながら覚えるのか、それとも組み合わせるのか。
ご自身がどのタイプかを考えてみて、それに合った方法を用いることで覚えやすくなります。

また、身体感覚派でなくても、何か動作をしながら覚えるというのは記憶の助けになるとも言われています。例えば、「この単語は、あの時階段をのぼりながやつだ!」という具合に、情報が一つ加わるため思い出しやすくなるのです。

単語習得の基本

どのタイプにしても、結局は単語を目にする、耳にする、を繰り返して覚えることに変わりはありません。

基本は、同じ単語に何度も出会うこと、そして、覚えられなかったらまた次回!の意識で取り組むことです。

例えばあなたの最寄り駅への道のり、毎日同じ道を歩いていたら、どこに何があるか自然と頭に入っているはずです。
ずっとスマホを見て歩いていて周りに注意を向けたことがなければ別ですが、多くの人は「この角にはパン屋」とか「この自販機には自分の好きな飲み物がある」とか、思い出せることが多いはずです。

単語も同じです。何度も繰り返し出会うことでしっかり定着させ、忘れない記憶にしたいのです。

また、何周かして、8割、9割覚えてくると、逆に、「この単語いつも忘れてる」というものが出てきます。
そういう「失敗経験」も強く印象付けるのに役立ちますし、覚えにくいものは少しアプローチを変えて、書いたり、音読したり、例文を作ったりして、定着を図りましょう。

学習の流れ

自分がいくつ単語を覚えたいかを決めたら、それを元に1日に学習する単語数を決めます。

例えば3か月で1500語習得を目指すなら、1ヶ月500語。それを5で割って、1日100語を6周繰り返して1ヶ月です。

最初の1周目は全部覚えられなくてかまいません。1日のすき間時間を使って、何度も見たり聞いたり書いたり。とにかく出会う頻度を増やして覚えていきましょう。1日目に100語終わったら、次の日は、次の100語に取り組みます。

5日間100語ずつ繰り返したら、6日目には最初の100語に戻ります。

2周目、3周目と繰り返すうちに、だんだんと「はじめまして」から、「見たことある」に変わっていく単語が増えていくでしょう。

1ヶ月毎日20単語ずつ学んで600単語を覚えようとした時と、1日120単語×5日間のサイクルを6周して600単語を覚えようとした時。1か月後に覚えている単語の数の違いに驚くはずですよ。

使いこなせる単語を増やすには

理解できる単語を覚えるのはインプット対策。つまり、読んだり聞いたりした時にわかる単語を増やすためです。

アウトプット、つまり話したり書いたりする時に使いこなせる単語を増やす時には、エピソード記憶を効果的に使うことを試してみてください。

いくつか方法をご紹介します。

  1. 実際の会話で使ってみる
  2. 人に説明してみる
  3. 自分の情報を取り入れて英作文してみる
  4. 例文を作る

会話で使う、人に説明する、という方法では、自分のアウトプットの後、相手の反応があります。
伝わらなくて言い直したとか、相手からこんな質問があったとか、その単語の意味だけでなく使った時の状況もエピソード記憶として残ることになります。
エピソード記憶は意味記憶よりも想起しやすいため、次に同じ単語を使おうと思ったときに思い出しやすくなるのです。

人と練習するのが難しい場合には、その単語を使って文章を作ってみましょう。

自分の経験や状況と結び付けて英作文することで、その状態をイメージし、そこから派生する感情などを感じやすくなりますので、可能であればできるだけリアルな情報を使ってみましょう。実際の情報を使って作った文章は、そのままその状況を説明する際に使えるので、実践前の練習にもなります。

それが難しければ、せめて例文を作って、できれば声に出して読んでみましょう。

新しく文章を作ろうとすることで、単語帳に載っている文章を読むだけだと働かない脳の部分が活性化し、定着しやすくなります。

まとめ

記憶のメカニズムを踏まえて単語の覚え方を考えると、一番大切なことはやはり「反復」です。

反復学習をするにも、ご自身のタイプを意識して学習法を選んでみると、より高い効果が期待できます。

語彙力が増えると、英語を理解しやすくなりますし、相手に伝わりやすい英語が使えるようになります。

ぜひ記事の内容を参考にして取り組んでみてくださいね。