英語をずっと勉強しているのに、海外ドラマを見たり、海外旅行でネイティブスピーカーに話しかけらたりして、全くわからなくてがっかりした、という方も多いのではないでしょうか。

そもそもリスニングというのは、耳から入ってきた音を頭の中で処理をして、発信された情報を理解する作業です。
つまり、音がつながってできた言葉を脳内で処理してイメージ化するのです。

聞こえたものが理解できないということは、「音が入ってくる過程」または「音が入って理解する過程」のどちらかでつまずいているということになります。

英語が聞き取れない理由2つ

英語が聞き取れない原因は上記した2つ。音が入ってくる過程での問題、「音由来」か、音が入って理解する過程の問題、「内容理解由来」です。

内容理解由来というのは、単語力、文法力が追い付いていない、または、話されている内容についていけないという場合。

1つ1つの単語の音が正確に聞き取れていても、その意味を知らなかったり、文法がわからなくて理解できなければ、どれだけ頑張っても聞こえた音がイメージ化されることはありません。
もし、分からない単語が1つ、2つであれば、話の流れから推測したり、そこを飛ばしても全体像がつかんだりできるかもしれません。
でも、いくら音が拾えても、その単語の意味や文法がわからなければ、正確にイメージ化できません。
「シュクラン」とか「スパシーバ」とか言われて、正確に音を拾ってリピートできたとしても、意味が分からなければ自分が何を言っているのかわからないはずです。(ちなみにそれぞれアラビア語とロシア語で、ありがとうという意味です。)

また、自分の苦手な分野の話は、日本語であってもなかなか理解するのが難しいかと思います。

私は車に詳しくないので、車の性能についての専門的な話には全くついていけません。トルクとかサスペンダーとか専門用語がでてくると、相手の話しているのが母国語の日本語なのに、どうしても頭の中でイメージが広がらないのです。
英語でも同じで、背景知識がないと聞こえているけど理解できない、という現象が起きてしまいます。

内容由来で聞き取れない場合は、単語力強化、文法のおさらい、背景知識を入れる、または教材として使っているのであれば興味関心のある分野のものから始めてみるなどの対策が必要となります

もう一つの音由来の方が英語が速いと感じる主な原因です。詳しく見ていきましょう。

「速い英語」は存在しない説

日本語に置き換えてみましょう。果たして「速い日本語」というのを一般的に使うでしょうか。

日本語が聞き取れないときは、相手がぼそぼそと話しているとか、活舌が悪いとかいう理由ではないでしょうか。早口の方も確かにいらっしゃいますが、だからといって日本語が聞き取れないかと言ったら、そういうわけではないでしょう。

ある講演で「速い英語は存在しない」と聞いたことがあります。ずい分と前なのではっきりとは覚えていませんが、真意は「速いか速くないかではなく、ナチュラルかナチュラルでないか」だったと思います。

例えば、「そのお店で何を買ったの?」を英語で表現してみましょう。いくつか言い方はありますが、シンプルな単語を使って下記のように言うことができます。

What did you get at the store?

これをどう発音しますか?

「ホワット ディド ユー ゲット アット ザ ストア?」でしょ!という方は、もしかしたらネイティブの英語は「速くてわからない」と感じているかもしれません。

ナチュラルな英語には、日本語にない音があるのに加え、音が変化したり省略されたりします。

この文であれば実際には「ワッディジュゲラッスト?」のように変化します。

人はそれぞれ自分の頭の中にデータベースを持っています。
例えば、storeという単語を/stɔːr/という音で登録するか、カタカナで「ストア」と登録するか。「店」という意味だけ登録するか、そのほかに「数えられるかどうか」「shopとの違い」のような、他の情報も併せて登録するか。こういったことで、その言葉に触れた時に引き出せる情報が違ってきます。

耳に入ってくる英語が速く感じ、話された言葉を文字でみたら簡単だと感じる場合には、あなたの脳内のデータベースに「ナチュラル英語の音」と「音の変化」を登録する必要があります。

英語で「ありがとう」は、多くの人が「サンクユー」ではなく「サンキュー/センキュー」として登録しているはずです。

THの音が「サ」や「セ」でないというポイントはおいておいて、自然な音の変化である、Thank の/k/の音と youの/j/の音をくっつけて「キュ」とデータベースに登録しておくことで、自然なThank you.が理解できるのです。

ナチュラル英語が難しい3つの理由

英語を勉強している人がネイティブの英語を難しく感じる理由は3つあります。

  1. 英語にしかない音がある
  2. 初心者用の教材だけで練習している
  3. ナチュラルな英語の音の変化に対応できていない

3つ目については上記で少し触れましたが、改めて1つずつ詳しくみていきましょう。

日本語にない音を聴くのは難しい

英語と日本語は言語間の距離が遠い言語です。文法だけでなく発音も大きく異なります。

例えば日本語は、母音(アイウエオ系の音)と子音(それ以外の音)をくっつけて1音にしていますが、英語にはもっとたくさんの音が存在します。世界で使われている発音記号は色々あり、利用する辞書によって若干の違いがありますが、母音が5つの日本語と比べると、英語の母音は基本のもので12音。母音の組み合わせを入れるともっとたくさんあり、日本語とは比べものにならない数の音が使われています。

英語の音の中には日本語に存在しない音もあります。こういった今まで聞き分ける必要がなかった音は、当然聞き取るのが難しくなります。

外国語学習の研究で臨界期仮説というものがあります。音をネイティブのように聞き分けられるのはある一定年齢までという説です。諸説ありますが、家族で海外赴任をし、子どもが一番英語がナチュラルに話せるというのはよくある話ですし、赤ちゃんは数時間で音の違いを学ぶという研究もあります。子どもの方が有利という点では間違いはなさそうです。

また、母語のフィルターという考えもあります。
LとRは代表的ですが、日本語にはラ行しかないので、”list”も”wrist”もどちらも「リスト」と置き換えてしまいがちで、違いを聞き取ることが難しいのです。

日本語にない音を聴こうと思ったら、認識できるようになるまでたくさんのインプットが必要です。
そして、それに加えてアウトプットの練習もして、自分が同じ音を再生できるようになることが重要です。自分が話せる音は聞き取れるからです。

つまり、発音のトレーニングはスピーキング対策だけでなく、リスニング力アップにもとても効果的なのです。

初心者用の英語しか聞いていない

初心者向けの教材だったり、英会話教室の初心者クラスに入ったりすると、英語はゆっくり話されています。

先ほど、速い英語はないという説について触れましたので矛盾を感じるかもしれませんが、この場合のゆっくり英語というのは、「単語一つ一つを丁寧に発音している英語」といういうことです。

単語や文法も、易しめなものを使っていることが多いかと思います。

日本で外国人に日本語で話す時、皆さんならどうしますか?

「お手数ですがこちらの書類を3階事務所の弊社職員にお渡しいただけますか。事務所へは右手のエレベーター、もしくは通路をまっすぐ行って左手にございますエスカレーターをご利用ください。」と言って、きょとんとしている外国人がいたとします。

日本語が苦手だとわかったら、話し方を変えて伝える工夫をするでしょう。例えば、「この紙を・3階の・人に・渡してください。」と、余分な言葉を省いてゆっくり話したり、一つの情報が理解してもらってから「エレベーターは・右です。」と新しい情報を付け加えたりするかもしれません。

簡単な単語で区切って話された英語だけで練習していると、スラスラと話される英語に脳内の処理が追いつきません。どんどん入ってくる新しい情報にパンクしてしまうのです。

実際にニュースの英語などを聞いていると、一息でものすごい量の情報が話されます。

最初は基礎用の素材で練習が必要ですが、レベルが上がるにつれて少しずつ自然な英語に触れることも重要です。

余談ですが、ある外国人の友人が、堅い日本語がわからなくて聞き返しても、同じ単語をゆっくりと繰り返すのでわからないと言っていました。コールセンターのように話す内容が完全にマニュアル化されていると、簡単な単語を使って言い換えるというのは難しいのかもしれないですね。
同じ様に海外旅行へ行った際、ホテルのフロントなど、比較的外国人の対応をすることが多い人と話す場合や、ホストファミリー経験者などとは会話しやすいと感じる一方、英語学習者と話すことに慣れていないネイティブスピーカーとの会話は難しいと感じるかもしれません。

こちらからナチュラル英語に近づこうと努力を続けるのはもちろんですが、コミュニケーションでは時には相手からの歩み寄りも必要です。
もし相手が簡単な英語で話すことになれていない時は、ジェスチャーなど言語以外のツールも駆使して乗り切りましょう。

ナチュラルな音の変化に対応できていない

ナチュラルな英語が難しい理由、それは、音が変化したり、そもそも発音されない音があったりするからです。
音の変化で注意するポイントは5つ、「連結」「脱落」「同化」「弱化」「フラッピング」です。

単語ごとに区切って発音しないことは先ほど触れましたが、詳しく一つずつ見ていきましょう。
正確ではありませんが、便宜上カタカナも使って英語の発音を表記しています。

連結

連結とは、「単語の最後の子音」と「次の単語の最初の母音」がつながって、一つの音になる変化です。ちょうど、ローマ字を作るような感覚ですね。

例えば、take it は、ひとつずつ発音すると、「テイク イット」ですが、テイクの最後の/k/の音と、イットの最初の/i/の音がつながって/ki/という一つの音に変化します。

take it  テイク イット → テイキット

have a break ハヴ ア ブレイク → ハヴァブレイク

自分で音読などの練習をする際には、二つの単語の終わりと始まりが「子音+母音」であれば音の変化が起こるのではないか、と意識してみるとよいでしょう。

脱落

脱落とは、「音を発音しない」という変化です。

例えば、get to は、「ゲット トゥ」ですが、最初の t が消えます。

get to ゲット トゥ → ゲットゥ

do it ドゥ イット → ドゥイッ

脱落は、子音と子音が重なったり、最後に子音が来ると落ちる場合があります。
破裂音と呼ばれる、いったん息を止めて一気に解放する音(b, p, t, d, g)は落ちやすいです。
また、摩擦音(s,z,thなど)も重なると落ちやすい音です。

ちなみに破裂音が続いて前の音が落ちる場合、厳密には「息を止めて解放する」の「息を止める」部分までを行い、次の音へ移行しているので、小さな間が空いているように聞こえます。

get to が「ゲトゥ」ではなくて「ゲットゥ」になるのもそのためです。

同化

同化は連結と似ていますが、音同士が影響を与えて音が変化する現象を言います。

例えば、I miss you. は、s+yが、「シュ」という音に変わります。

I miss you. アイ ミス ユー → アイミシュー

did you ディド ユー → ディジュ―

細かく見ると、that park のように、後ろのpの影響でtがpに変化し、「ザッパーク」となるような場合も同化になりますが、まずは、子音+yの音を気にするところからスタートが良いと思います。

弱化

英語では、意味のある単語(内容語)は強くゆっくり発音され、機能語(それだけではキーワードにならない言葉)は弱く発音されます。

機能語には、前置詞や冠詞などがあります。

次の2つの文章を比べて見てください。

1.My ______ is a ______ _______ in ____.
2.__ father__ _ famous musician __ town.

1の文では全くイメージがわかなくても、2の文だとなんとなく伝えたい事が伝わるのではないでしょうか。

もちろん機能語には大切な役割があり、欠かすことができません。
ただ、ほとんど発音しない音があるということを知り、文法の知識を得ると同時に、自分自身も強弱を意識して話す練習をしていくと、不思議とほとんど聞こえない機能語も補えるようになるものです。

フラッピング

flapとは翼などがパタパタするという意味です。フラッピングは北米の英語で起こる音の変化で、Flapped Tとかはじき音とも呼ばれます。

フラッピングでは、tの音がdや日本語のラリルレロに近い音で発音されます。

フラッピングが起こる代表的な例は母音に挟まれたTです。

water ウォーター → ウォーラ―
better ベター → ベラー

文字の通りに聞こえないな、と思ったら、音が変化していないか注意して聞いてみてください。

ナチュラルな英語が聞けるようになるには

さて、ここまで「聞こえない理由」について色々とお話してきました。
ではどうしたら聞こえるようになるのでしょうか。

テキストとにらめっこしながらひたすら音を聴くより、私は音読トレーニングをおすすめします。

音の変化があることを理解した上でテキストと音源を用意し、気づいた音の変化をどんどん書き込みながら、実際に声に出してトレーニングをするのです

最初は音が変化しているポイントを拾いきれないかもしれないし、自分が話している音が音声とは違うかもしれません。

自分一人でやってうまくいかない場合、始めのうちは音の変化のポイントが書かれている音読用のテキストである程度コツをつかむのがお勧めです。また、自分の声を録音して音源と聞き比べるという方法も有効です。

機会があれば、発音の指導もしてくれる音読クラスの受講も効果的です。

いずれにしても、ナチュラル英語を理解するには、耳から入ってきた音の処理が自動的に行われる必要があります。

色々な法則を頭の中で広げて、「この音はこの法則で変化しているはずだけど実際にはこういってるはずだ!」という分析をする時間はありません。

自動化するには訓練が必要。ただ、訓練前にある程度の知識を入れておくことで、訓練の質を上げることができます。

さあ、一歩ずつ進み続けましょう!